うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
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第11回は、「非定型うつ病の症状 ⑦ フラッシュバック」の続き「なぜ非定型うつ病になってしまうのか?」をみていきます。
目次
なぜ非定型うつ病になってしまうのか?
非定型うつ病のようなうつ病が、なぜ現れたのでしょうか。
性格、遺伝、育ち方、脳のメカニズムなど…どのように関係しているのでしょうか。
ストレスが発病の誘因になる
「一体、何が原因なのか…」
うつ病になると、患者さんや家族はこのような疑問を持つようです。
残念ながら、うつ病の「原因」そのものは、まだ解明されていません。
ただ、発病には、いくつかの「誘因」や「きっかけ」が関係していると考えられています。
まず、ストレスについて。
ストレスは、うつ病にとって重要なリスク因子とされています。
ストレスとは「心に受けた刺激により起こされた精神的な緊張」のこと。
厳密には、刺激はストレッサー、それによって引き起こされるのがストレス反応と呼んで区別していますが、一般的には両者を含めてストレスと呼びます。
ストレッサーになるのは、
- 騒音や寒暖、細菌など物理的なもの。
- 空腹、痛み、熱などの身体的なもの。
- 人間関係や仕事、経済問題などの社会的なもの。
などがあります。
私たちは、いつもストレスにさらされながら生活しているわけですが、通常なら心の働きでうまく処理してくれます。
しかし、ストレスが強すぎたり、蓄積されたりすると心と体にもさまざまな悪影響が出てきます。
身体面では、免疫系、自律神経、内分泌系に作用して体調が崩れます。
精神面では、不安、イライラ、気分の低下を招いてうつ状態におちいることに繋がります。
しかし、ストレスが全くない、精神的に緊張感がない状態というのも逆に良くありません。
問題は、ストレスそのものにあるのではなく、その強さの程度や受け止め方にあります。
受け止め方には性格も関係しており、それによってうつ病になる・ならないが分かれるとされています。
では、どのようなタイプの人が非定型うつ病になりやすいのでしょうか?
どんな性格が発病にかかわるのか
うつ病の発症には、その人がいま自分の置かれている状況をどのように考えるか、ストレスをどのように受け止めるか、といったことが深く関係します。
しかし、これには個人差があり、同じ状況にあるのに、うつ病になる人とならない人がいます。
そこで、よく言われるのが、考え方のベースとなる「うつ病になりやすい気質(性格の特徴)」があるのではないか?ということです。
ただし、性格だけがうつ病を引き起こすわけではなく、あくまでも誘因のひとつです。
周囲の状況や環境、養育歴、体調など、さまざまな誘因が絡み合い、うつ病は発病します。
しかし、性格は簡単に変えられません。
性格ばかりがクローズアップされると、「性格の問題だからうつ病は治らないのだ」ということにもなりかねませんが、実際はうつ病には治療法があり、きちんと療養すれば必ず回復することができます。
以上を踏まえた上で、性格については、うつ病という病気を客観的に知るための材料の一つであると考えてください。
定型うつ病の人は几帳面でまじめ。頑張りすぎて発病。
うつ病になりやすい性格(病前性格)として、精神科学でよく取り上げられるのが「メランコリー親和型」性格と、「執着気質」で、どちらも定型うつ病(メランコリー型うつ病)の人に多く見られます、
メランコリー親和型
秩序や決まりごとを好み、几帳面、真面目、勤勉、誠実、律儀、世話好き、他人に対して気配りする、といった特徴があります。
メランコリー親和型の人は、ものごとや人間関係がきちんと秩序通りになっていないと気に入りません。
これまでの秩序が変わったり、秩序が崩れて新しい形になったり、今まであったものがなくなったりすることに非常に敏感で、変化に弱い側面があります。
そのため、結婚、出産、定年、家族との死別などをきっかけに、うつ病を発症することがあります。
八方美人的に人に気を遣いすぎたり、能力以上の仕事を引き受けて、身動きがとれなくなって発症するとも考えられています。
執着気質
仕事熱心で集中力があり、凝り性、正義感や責任感が強い、几帳面、という特徴があります。
このような性格の人は、頼まれるとイヤと言えず、何でも自分で抱え込んで頑張りすぎて疲れ果て、うつ病になってしまうようです。
執着気質をはじめに提唱した、精神科医・下田光造博士によると、うつ病患者の93%に執着気質がみられるという研究報告もあります。
メランコリー親和型と執着気質がよく似ており、いずれも日本人の典型的な精神性といえるでしょう。
日本の経済成長を支えてきた団塊世代の人に多くみられるタイプです。
20世紀までの日本では、うつ病の大部分を定型うつ病が占めていたのは、この気質の人が多かったためともいえます。
一方で、最近ひとつのことに執着するよりも、多様性や自由きままを愛して、仕事もほどほど、といったタイプが多くなっているようにもみえます。
21世紀になり、非定型うつ病という新しい形のうつ病が増えているのは、日本人の気質の変化も関係していると考えられています。
非定型うつ病の人は、いわゆる「よい子」タイプ
非定型うつ病の人は、発症前はいわゆる「よい子」だったケースが多いようで、親や周囲人にとって手のかからない、おとなしい子ども。
学業の成績もよく、エリートコースを歩む人もいます。
学校でも、仕事についてからも褒められ、高い評価を得ますが、一方で叱られたり批判されたりする経験が少ないため、ちょっとした失敗でも本人にとっては大きなストレスになり、ダメージを受けます。
人から褒められても、内心は自分に地震が自信がなく、他人の評価が気になって仕方がない「もろさ」があります。
このような「もろさ」は特別なことではなく、誰にでも多少はみられるものです。
では、非定型うつ病になるかどうかを分けるポイントはどのような点なのでしょうか。
●他人に対する強い緊張感
「拒絶性過敏症」症状の回でも、述べましたが、非定型うつ病の人は、周りの目をきにするところがあり、心の中には他人に対する緊張感(対人緊張)があるため、人から嫌われたり、批判されたりすることを何よりも恐れています。
本人にとっては、人からどう思われるかが第一になるため、気に入られよう、自己主張せずに自分を殺して他人に尽くす、という行動パターンができあがります。
しかし、このような行動には無理があるため、やがて破綻して発病すると考えられています。
非定型うつ病になりやすい性格を考える上で、もっとも重要なのがこの「対人緊張」だと言えます。
●根底にある不安気質
非定型うつ病は、他の精神疾患を併発しやすい病気です。
もっとも併発しやすいのが、「パニック障害」、次に「社交不安症」です、
非定型うつ病という病気の根底には、パニック症や社交不安と共通する「不安気質」があると言えます。
不安が強く、こわがりのため、人前で上りやすく、対人関係にも臆病になりがちです。
「嫌われたらどうしよう…」「失敗したらどうしよう…」と、物事を悪い方向へと考え、小心のところも脆さに繋がります。
●発病後に性格が変わる
非定型うつ病という概念の原型のひとつとされる「類ヒステリー性不機嫌症」について、海外の研究報告には、このような記載があります。
非定型うつ病が発病したあとに、性格が一変することがありますが、これはその人本来の性格ではありません。
非定型うつ病の人は、発病前はなんら問題なく日常生活を過ごしているのです。
次回、「自己愛の強さと非定型うつ病」へ続く